2015年08月11日

荷物を運ぶ

 荷物を運ぶ
 日曜日の夜、斎藤は昌枝と共に自宅に到着した。ここでも荷物運びは斎藤一人でする。昌枝は疲れた疲れたといって、早々にソファに横になってしまった。
「俺、トッポを受け取りに行ってくるよ」
 トッポというのは飼っている犬の名前だった。旅行の時には友人に預けていくのだ。
「ああ、お願い」
 半分眠ったような声で昌枝は返事した。
 斎藤は車を運転し、春美のマンションに向かった。トランクの韓國 午餐肉中には彼女の死体が入ったままだ。だから別荘を出る時、荷物はすべて後部席に積んだのだが、自分で意思のない昌枝は、何ら疑っているようすがなかった。
 春美のマンションに着いたのは、午後九時を過ぎた頃だ。
 斎藤は車を地下駐車場に入れた。その一番奥に止めてあるプリメーラが春美の車だ。その横に自分の車を止めると、手袋をはめて外に出た。
 ボルボの後ろに回り、ひと呼吸置いてからトランクを開けた。昨夜ほうり込んだ時のままの格好で、春美は横たわっていた。恐れていた異臭はまだない。春美がいっていたように、トランクの中は案外寒いのかもしれない。
 死体は目を開けていた。その目を見ないようにして彼女の。バッグからキーを取り出すと、プリメーラのドアを開けた。それから死体をひきずり出し、後部シートに寝かせた。
 彼女のキーはバッグに戻し、何もぬかりがないことを確認してからドアロックをした。
 ――よし、誰も見ていないな。
 素早くボルボに乗り込むと、斎藤は勢いよくエンジンを吹かせた。
 
 死体発見は十月三十日の月曜日だった。発見者は中井春美の隣に駐車場を借りている銀行マンだ。朝、出勤しようとして何気なく隣の車を覗き込み、死体に気づいたらしい。若い銀行マンは死体を見るのは初めてらしく、警察官の事情聴取中も青い顔をしていた。
 早速マンション住人の聞き込みが開始されたが、死体がいつからあったのかはさだかではない。ただ、春美の車が金曜の夜から置かれたままになっていることは、ほぼ確実のようだった。
 盗まれたものはなく、暴行の跡もない。怨恨のセンが強いというのが、捜査当局の見方だった。
 そんな中で、刑事の一人が興味深い情報を得た。情報提供者は春美が働いているスナックのママだった。
「土曜日の六時過ぎ頃、変な男から電話がかかってきたんです。春美はいないかって。休みですっていったら、名前もいわずにガチャン。その後すぐに春美ちゃんから電話があって、店に変な男から電話があったんじゃないかっていうんです。あったわよっていったら、やっぱりって、ため息をついてました。どうやら彼女の部屋にも電 話がかかってきたらしいんです。つきまとわれて困ってるっていってました」
「どういう男かは聞かなかったんですか」
「教えてくれませんでした。話したくないみたいだったし、本当に困ったら打ち明けてくれるだろうと思いましたから」
 この話は捜査のひとつの方向づけをした。春美の相手の男を探せというわけである。昔の男、何らかの関係のある男が、片っ端から容疑の対象となった。
 斎藤和久の名前が浮かんだのは、事件から四日目のことだった。以前春美の友人が彼女の洋服を褒《ほ》めた時、これは店に来るお客さんで、洋服関係の仕事をしている人からプレゼントされたのだと、彼女が口を滑らせたことがあったというのだ。調べたところ、それに該当するのは斎藤だけだった。また春美の部屋を調べたところ、斎藤の妻が経営しているファッションビル内で売られていたものと同種の洋服が、続々と出てきたのだ。
 すぐに捜査員二人が斎藤に会いに行った。警視庁捜査一課の金田刑事と、所轄の田所刑事だ。
 二人の刑事と対峙した斎藤は、中井春美という名前を聞いても、すぐには思い出せぬような表情をした。それでスナックの名をいうと、ああ、と小さく手を叩いた。
「彼女ですか。店で一、二度話をしたことがあります。あの子が殺されたんですか? へえ、そいつは驚いたなあ」
 洋服をプレゼントしたのではないかと金田刑事が問うと、斎藤は心外そうな顔で、付き合いもないのにそんなことをするはずがないと否定した。
「ところで先週の土曜から日曜にかけて、あなたはどこにおられましたか?」
 金田刑事は尋ねた。死亡推定時刻は、幅を持たせて、土曜の昼から日曜の朝ということになっている。
「アリバイですか」
 斎藤はにやりと笑ってから、その日なら山中湖の別荘に行っていたと供述した。証人は近くの別荘の仲間だという。
「殆《ほとん》どずっと皆と一緒にいましたからね。誰に訊いてもらってもかまいませんよ」
 自信満々の口ぶりだった。
 捜査本部に帰った二人の刑事は、本部長に斎藤和久の印象を訊かれた。二人は、心証は大いに黒いと口を揃えていった。

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Posted by 弄梅望雪 at 13:17│Comments(0)永久脫毛
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