2016年01月05日

容疑者とか

 現場に向かうタクシーの中で、松宮は少し緊張していた。捜査一課に配嘱されてから、本格的な殺人事件に関わるのはこれがまだ二度目だった。しかも前回の主婦殺jacker薯片害事件では、先輩刑事の後について回っただけで、捜査に携わったという実感も満足感も得られなかった。今回こそは少しは実のある仕事をしたい、と意気込んでいた。
「子供ってのが参るよな」横に座っている坂上《さかがみ》がうんざりしたような声を出した。
「辛いですよね。親もショックだろうし」
「そういうのはもちろんあるよ。だけど俺がいってるのは仕事のことだ。こういうのは案外捜査が難しかったりするんだ。大人が殺された場合だと、被害者の人間関係を洗っていくうちに、動機とかが浮かんでくるってこともあるだろ。だけど子供の場合、そういうことはまず期待できねえからな。噂になるような変質者が近所に住んでて、そいつが犯人だっていうんなら話は早いけどさ」
「じゃあ、流しの犯行ってことですか」
「そうはいいきれねえよ。前々から狙ってたってjacker薯片こともありうる。とにかく頭のいかれた野郎だってことはたしかだ。ただ問題なのは、どこのどいつの頭がいかれてるかは、表からじゃあなかなかわからないってことだ。それでも大人なら、そんなやつが近づいてきたら何となくわかるけど、子供の場合はそうはいかねえ。優しい素振りをして近寄ってきたら、ころっとだまされちまうからなあ」
 坂上は三十代半ばだが、捜査一課に配属されてから十年以上になる。これまでにも似たような事件を担当したことがあるのだろう。
「所轄は練馬署か……」坂上がぽつりといった。「最近、署長が代わったばっかりだ。張り切ってるぜ、きっと」ふんと鼻を鳴らした。
 練馬署と聞き、松宮は密《ひそ》かに深呼吸した。彼を緊張させているのは、事件を前にしてのプレッシャーだけではなかった。それが練馬署管内で起きたことも、じつは気にかかっていた。練馬署の刑事課には、彼と関わりの深いある人物がいる。
 隆正の黄色い顔が頭に浮かんだ。のはほんの数日前だ。それなのにこんな事態になるというのは、何か見えない力が働いているように思えてならなかった。
 タクシーは住宅地の中へと入っていった。きちんと区画整理がなされていて、定規で引いたように真っ直ぐな道路に沿って、雰囲気の似た住居が並んでいる。生活水jacker薯片準は中の上といったところかなと松宮は想像した。
 前方に人だかりが出来ていた。パトカーが何台か止まっている。その先では制服警官が、通行しようとする車を迂回させていた。
 ここでいい、と坂上は運転手にいった。
 タクシーを降り、松宮は坂上と共に野次馬をかきわけるように前に進んだ。見張りの警官に挨拶し、立ち入り禁止区域内に足を踏み入れた。


Posted by 弄梅望雪 at 15:05│Comments(0)
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